[多摩川だらだらラン紀行]番外編 水干(みずひ)をめぐる冒険

多摩川支流の上流端から多摩川に合流する場所までをめぐる、「多摩川だらだらラン紀行」。今回は、古畑の念願であった、多摩川の一番最初の場所、笠取山の水干(みずひ)をめぐることに・・・!

タイトルにある「だらだら」でも「ラン」でもないのですが、今回は番外編ということでお付き合いください。

笠取山に行く主なルートは①作場平という場所から行くルートと、もう一つ、②新地平という場所から行くルートがあるそうですが、今回は①の作場平から行くルート。最寄りの公共交通機関がないので、青梅駅から自家用車で向かいます。

青梅から車で1時間半くらいで作場平に到着。こちらは最近完成した新しいトイレとのこと。ピッカピカでした!

さてこちらが今日訪れる「水干ゾーン」のマップ。今まで僕はバーチャル多摩川(注:コロナ禍のときにライブ配信した、Google Earthの中の多摩川)でしか訪れたことがなかったので、こうして実際にこの場所に来ることができて本当に嬉しい・・・!

ルートとしては、作場平からヤブ沢峠、笠取小屋を経由して「小さな分水嶺」へ、その後、念願の水干に行き、山頂を目指します。(間違っていたらすいません)

いよいよ出発!

この日は3月上旬。作場平口周辺でも残雪が見られました。

・・・と、いきなり見どころ!一之瀬川の美しい渓流です。

もう、なんというかこの時点で大満足なんですが。

登山道は東京都水道局と笠取小屋の方々がしっかり管理されているそうで、道幅も広く、そして美しく整備されています。あたり一面苔むした美しい景色もありました。

また、途中こうした情報も掲示されていて、学びを得ながら登山できるのも個人的には嬉しいポイント。

美しい景色と雲ひとつない青空。この日は日頃の行いと水干探訪への渇望が功を奏したのか、本当に良い天気でした。

初の水干へ最高の舞台が整った・・・!

歩き始めて約2時間、笠取小屋に到着!

笠取小屋は管理者の方と、「笠取の會」の協力者の方々で運営されています。

源流の水で淹れた「源流コーヒー」をごちそうになりました。

なんでも、このコーヒー、その時々によって様々なブレンドが楽しめるのだとか。温かいコーヒーが身体にしみます・・・!

小屋の近くにある小屋。佇まいが可愛らしいです。

笠取小屋周辺は残雪・凍結しまくりの「ボブスレー状態」。ツルツル滑って非常に危険なので、ここから先は、シューズに「チェーンスパイク」を取り付けて登っていきます。

まさか、こんなトゲトゲしたものを足につける日が来るとは・・・!

なんだか、少し強くなった気がしました(子どもか)。

いえ、強くなったわけではもちろんないのですが、凍結した地面に対してめちゃくちゃしっかりと足踏みできるようになりました。これはすごい。

同行した方に教えて頂いたのですが、チェーンスパイクは凍結した地面だけでなく、ぬかるみや湿った落ち葉などの地面にも有効だそう。装備しておくと行ける場所が広がってとても楽しいですね。

チェーンスパイクの素晴らしさを踏みしめて実感しながら、進んでいきます。

さあ、「小さな分水嶺」が見えてきました。この場所は「荒川」「富士川」そして「多摩川」の3つの川の分水嶺。

この分水嶺の石柱、なんだかすごく魅力的です。石でミニチュアを作って持ち歩きたい。

富士川と多摩川。

多摩川と荒川。

それぞれの面に向かって、ここから水が流れていくのだそう。

小休止していよいよ水干に向かいます・・・!

正直、もうこの時点で僕の精神は訳がわからない状態になっておりまして、感動を通り越し、ありとあらゆる感情の波に飲み込まれていました。

というのも、多摩川を愛でる会、多摩川グッズを初めた当初から、やはり最初の場所である「水干」への強いあこがれとリスペクトがあったから。

多摩川河口や、「多摩川」という呼称が始める小河内ダム、すばらしい支流の数々を今まで巡ってこれましたが、「水干」にはまだ行けなかった。いや、行こうと思えばもちろん行けたんですが、自分が水干に行くべき【その時】をずっと待っていた、とっておいたのです。今、色々なことを経て、【その時】が来たので僕は今ここにいるんだッ!いよいよ・・・!

言っている意味分かりますか。

同行者で同じく水干に初めて行く多摩川ラヴァーズの方も「ああ、いよいよ行ってしまうのか」と興奮していました。分かる人には分かるはず・・・!

同行した多摩川ラヴァーズ。多摩川グッズのスマホケースを愛用頂いている同志ッ・・・!

さて。

この道の先に水干があるッ・・・

はぁぁぁあぁああああああああああああああああああ”””””””

ほおおおおあおおあおあおあおおあおあおおおあおあおあおおあおあお

ううううううううううううううううううううううううううううううううううっ、

ここが水干・・・!

多摩川の最初の一滴がしたたる聖地・・・!

・・・

同行した方は気づかなかったと思いますが、僕の内面世界はこのとき完全に崩壊していました。

しかしながら、もう良い年をしたおじさんなので、どこかに飛び散った冷静さをなんとかたぐりよせて、

記念撮影。

いよいよ来たのだ、水干に。

ここからしみ出す一滴が、東京湾まで138km流れていくんだと思うと。

そして、それを今目の前にしていると思うと。

またちょっと理解不能な状態に。

よくわからない感情、これは「感動」なのか?

というか、目の前のこれは現実なのか?(Google Earthじゃないよな)

・・・

ちなみに、「最初の一滴」はなく、枯れておりました。

でもいいんです。

というか、

もはやそれを見たり触れたりすることに意味は無いんです。

身体の一部が一滴に触れ合うことに意味なんてない。

とにかく、さっきもお伝えしたとおり、僕の内面世界では頭から大量の多摩川をかぶるくらい、水干を体感できました。まさに感慨無量、感無量。

・・・

そんな水干との内面的交流があったあと、同行者の方から、「この上に水神社があるので、見たい方は是非。ただ、急斜面を登るので行きたい方だけ、無理はしないで。」とのこと。

ほう!?神社があるんですね。この上に。

なるほど、これは確かに急斜面、というか、ほぼ壁・・・!

写真では伝わらないと思いますが、壁をよじ登っていく感じです。ロープもありますが、耐久的にやや不安ありです。本当に危ない場所なので、経験のある方の同行や、アドバイスなしでは絶対に行かないでください。

高所恐怖症の僕は下を見て、登ったことをやや後悔。

こちらが水神社。右下に澤乃井のワンカップが供えてあって可愛らしい。

しかし、こんな場所にどうやって祠を立てたんだろう・・・

・・・

さあ、次は笠取山山頂を目指します。

割と急な斜面+積雪で、結構ヒヤヒヤしながら登りました。

日頃の運動不足のせいで少しずつ身体が重くなるような感じと、あと、僕は山頂よりも「水干」に自分のクライマックスを設定していたので、それが過ぎてなんとなくぼーっとしてしまいました。

これが、笠取山の山頂だ・・・!

ただ、山頂で見た景色は本当に美しかった・・・!富士山ってなんでこんなに美しいんだろうか。

遠くに南アルプスも見えました。なんとも言えない達成感。

この時思いました。

『今日は水干に行くために登山をしているだけれど、登山そのものも楽しいんだ』と。また、今度、違う山に行ってみようかな。

ここは笠取山山頂近くの、「山頂風」のポイント。視界が山頂より広がっているので、こっちの方が山頂っぽいとのことでした。

最高の景色を堪能したら、下山します。スキー場のような急斜面。

上りのときにはカチコチで巨大な霜柱の地面でしたが、下山時はこれが溶けてぬかるみと落ち葉がMIXされた非常に歩きにくい地面になっていました。時間帯によってこんなに地面の状況が変わるんだと感心。ズボッ!と落とし穴のようになっている場所もありなかなかスリリングな下山でした。

その後、無事作場平まで下山。青梅から無事帰路につきました。

帰りの電車でぼーっと考えていたのは、やはり『ああ、ついに「水干」に行ってしまったんだ』ということ。

僕の中で『「水干」に行ってしまったら、僕の中の多摩川を愛でる会が完全燃焼してしまうのではないか』という不安と、ずっととっておいた宝箱を開けてしまったような、損失感も少なからずありました。

でも、その不安や損失感は消えて、翌朝、僕はまたいつものように元気に多摩川に出かけていました。

・・・

水干に行けたことで、目の前の多摩川が以前と少し違って感じるのに気づきます。もちろん現代の多摩川の、上流から下流へと流れる水の割合はかなり低いけれど、それでも心のつながりのようなものを強く感じるようになりました。

水干を訪れたときの内面的体験についてあえて触れましたが、水が流れていくという表面的なつながりだけでなく、流域に暮らす我々の心には、上流〜下流をつなぐ精神的「つながり」が少なからずあるように思えます。

いや、めっちゃあります。

かつて、奥多摩の木材を切り出して、青梅から筏師が下流まで旅して運んだように、これからも多摩川がつなぐヒト・モノ・文化を大切にしたいな、と聖地「水干」を初探訪して思ったのでした(完)