多摩川を愛でる人々 インタビュー:多摩川の水辺で人と会い、新しい発見づくりの場をつくりたい。川崎市 建設緑政局 藤野貴司さん

今回は、川崎市の多摩川の水辺で様々な取り組みを行う川崎市建設緑政局の藤野さんに、場作り・コミュニティづくりについてお話を伺いました。(聞き手:古畑健太郎)

新型コロナ感染拡大の影響を受けZOOMでインタビューを行いました。内容は2020年5月28日時点のものになります。
藤野 貴司 Takashi Fujino
川崎市建設緑政局緑政部多摩川施策推進課 水辺・みどり活用担当。※現在は「まちづくり局交通政策室」

藤野さんとの出会い

今まで多くの民間主催のイベントを多摩川の水辺にマッチングしてきた川崎市の藤野さん。

藤野さんと初めてお会いしたのは、近所のファミレスでした。

多摩川を愛でる会の活動に興味を持っていただき、一度直接会ってお話をしたいということだったのですが、なんと僕たちに小さな子供がいることをお気遣いいただいて、川崎からわざわざ多摩川を渡って狛江まで足を運んで頂いたのです。

その後、多摩川を愛でる会は、藤野さんにお声がけをいただいて、何度か川崎市のイベントにお邪魔させていただきました。

そんな、市町村を越え、水辺で人をつなぐお仕事をされている藤野さんには、今回、川崎市がこれまでに取り組んできた施策や、様々なイベント事例などのお話にはじまり、仕事で大切にしていることや、続いていくイベントの特徴などについて語っていただきました。

多摩川に限らず、様々なエリアでイベント運営に取り組んでいる方の参考にもなる内容なので、是非最後まで読んでいただけたらと思います。

舞台は川崎市の多摩川の水辺!・・・と言いたかったのですが、コロナの影響でZOOMを用いたリモートインタビューになりました。

ではでは、はじまりはじまり〜!

多摩川に沿って長く、たくさんの自治体と接する川崎市

ー藤野さん、ご無沙汰しています。本当は春の多摩川の水辺でお話を伺えたらよかったのですが、今回はリモートでご対応いただきありがとうございます!よろしくお願いいたします。

ご無沙汰しております。はい、よろしくお願いいたします。

ー早速ですが、まずは川崎市としてどのようなビジョンのもとまちづくりをしているか、多摩川視点から教えていただけますでしょうか。

川崎市では、市民の心のふるさとと呼べる多摩川を市民共有の財産として、より豊かな河川空間の創出を目指すため、平成19年3月に「川崎市多摩川プラン」を策定し、計画に基づき施策を推進してきました。

現在は、改めて多摩川を見つめ直し、川崎のシンボルである「ふるさとの川・多摩川」の歴史的・文化的資源、そして環境資源を最大限に活かしたにぎわいの場(憩い・遊び・学ぶ)の創出を目指すため、「川崎市新多摩川プラン」を策定し、取組みを進めています。

ーありがとうございます。「川崎市新多摩川プラン」というビジョンのもと、まちづくりをされているのですね。ところで、「多摩川施策推進課」という、「多摩川」という呼称が入っているのが個人的にとても惹かれるのですが、組織の成り立ちと概要についてお話お聞かせいただけますでしょうか。

「多摩川施策推進課」は、多摩川プランに基づく施策を総合的に推進するために平成になってから組織化されまして、

①河川協力団体との協働事業や指定管理施設の運営を行う「協働推進係」

②運動施設や広場などの整備や利用マナーの向上を行う「計画調整係」

③施設の維持管理を行う「多摩川管理事務所

④河川敷の更なる活用による賑わい創出を推進する「水辺活用担当

の4つの組織で構成されています。

川崎市は横に長く、多摩川に接している部分がとても長いんですよね。なので、必然的に流域自治体との交流も多くなります。

大田区・世田谷区・狛江市・調布市・稲城市、というように一つの市が川を介して接する自治体が、これほど多いのは珍しいです。
そうした背景から、市長も「流域で盛り上げていきたい」という思いがあり、各自治体との連携や意見交換など積極的に行っています。

多摩川を介して、稲城市・調布市・狛江市・世田谷区・大田区と接する川崎市。(「MIZBERING」https://mizbering.jp/archives/22133 より引用。)

ーたしかに、多摩川下流の東京側を走っていると自治体がコロコロ変わっていく印象がありますが、神奈川側はずーっと統一感がありますね。道も寸断されずに整備されていますし。

普段、藤野さんは川崎市内で活動する市民団体の皆さんと一緒に、様々な取り組みをされてきたかと思いますが、具体的にどのような人たちとお仕事されているか教えていただけますか。

市内で活動されているまちづくり団体の方々や多摩川沿川の自治体や企業、「やってみたい」を持っていらっしゃる方々が中心です。

そのような方々と、多摩川やまちづくりに関する意見交換の場でお会いして、活動内容と水辺をマッチングできないか試行錯誤しながら支援してきました。

ーなるほど。例えば、そういう意見交換の場に行く機会は無かったけど、川崎の多摩川で何かやりたい!というような人たちがいたら、多摩川施策推進課にご連絡してもよいのでしょうか?

はい、大丈夫です。担当が話を聞いてくれますよ。ですが、なかなか川を舞台にどのような活動ができるのか分かりにくいところもあるので、多摩川施策推進課では市民のみなさんに「こんな使い方もありますよ」というPRをする役割もあります。

ーハードルが高いと思われがちなんですね。まあたしかに、何かはじめよう、やろう、と思ったら僕はすぐに多摩川が思い浮かびますが、普通はそうじゃないですもんね。

そうですね笑。

たとえば、普段市街地で活動されている方に「多摩川使いませんか」とお誘いもしてきました。ただし、天候面などやはりハードルが高いことは事実ですね。

ーそうですよね。天候といえば、昨年の台風19号はかなりインパクトがあったといいますか、初めて自然災害を「自分ごと」に思うきっかけになりました。今は、コロナのせいで皆忘れてしまっていますが、多摩川の河川敷はまだ「復興中」なんですよね。よければ現在の状況や、今後の対策などについてお話をお聞かせください。

まずは台風の被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

河川敷も多大なる被害を受けまして、復旧作業を進めております。
今年度はその影響で開催することはできませんでしたが、2017年から開催してきた「カワサキキャンプ」などを通じて、防災に関する知識を身につける取り組みができたらと考えています。

https://kawasakicamp.qloba.com/

あらゆる自然災害などを注意していかなければいけないのですが、安全・安心に水辺で過ごしていただけるように、安全管理や利用ルールを守りながら水辺の楽しさも一緒に伝えていきたいと思っています。

情報発信という点では、先程もお伝えした通り、川崎市は地形的に多摩川に沿って長い形状をしているので、「ここに来たら河川敷の情報を見ることができるよ」というような場所、たとえば登戸にあるような「せせらぎ館」のような施設のあるところは良いのですが、二子玉川の対岸はBBQ広場しかないため、なかなか情報発信をするのが難しいのです。

ただ、市民の目が近所に向けられるようになった今だからこそ、これまで遠方から来る方が大半を占めていたBBQ広場のような場所を使って頂いて、地域に開けた場所になれば良いなとも感じています。そういう身近な場所から、市民のネットワークをうまく生かした呼びかけ・注意喚起を発信ができるとよいですね。

ーコロナ時代の災害時対応、という2つの問題を一緒に考えていくのはなかなか一筋縄ではいかないかもしれませんが、今だからこそ市民がそうした「身近な場所」に集い、連帯して備えていけたら素敵ですね。

さて、イベントについてのお話が出たので、藤野さんが活躍された具体的なイベント事例について教えていただけますでしょうか。

はい。たとえばキャンピングオフィスプレイグリーンパークなどがあります。

キャンピングオフィスは働き方改革にスポットを当てた取り組みです。多摩川の水辺にテントを立てて企業の方々に会議室として使っていただきました。

http://campingoffice.catalyst-ba.com/

使って頂いた企業さまには好評で、市としてもこのような新しい視点で実験を行えたことはとても成果がありました。課題はやはり天候なのですが、今の時代において三密を避けるという視点からするとニーズが高まるかもしれません。

プレイグリーンパークは、週末に水辺で親子と一緒に遊具などで遊んだり、ワークショップなどを楽しむことができるイベントです。

https://playgreenpark.jimdofree.com/

地域の方々にボランティアスタッフとして参加頂いたり、企業の方々もお招きして、地域で子育てを楽しむきっかけづくりをしています。こうした個々のイベントでは、主催者が円滑に河川敷を使うことができるように、関係機関との協議や必要な手続の支援などをしていました。

使う場所によって協議先や必要な手続が異なるため、このことが河川敷を使うことのハードルに感じず、継続的に使っていただけるように気を配っています。

「プレイグリーンパーク」には、我々も多摩川グッズストアとして出店させていただきました。藤野さんにお会いしたおかげで、川崎市のみなさんと接する機会が増えてとてもうれしく思っております。

最初にお会いしたとき、川を渡って僕たちの近所まで来て頂いたように、藤野さんのフットワークの軽さがとても印象的なのですが、人と接する中で心がけていることなどありますか?

最も念頭に置いていることは、コミュニケーションを十分に取ることです。こちらが目指していることはもとより、相手がどのように考えどういったことに取り組んでいらっしゃるかをお聞きしながら、接点を見出して相乗効果を得られることを見出すことです。

このため、コミュニケーションの機会をつくり相手をもっと良く知るために、その方が主催や参加をされているイベントなどに足を運んでお話をさせていただくことも大切にしています。

みなさんの活動をネットなどで拝見するだけでなく、実際にお会いして「活動で何を大切にしているか」を実感することで、水辺での活動をイメージしていました。

例えば、昨年のラーメンのときのように、みなさんの大事な活動にはなるべく足を運ぶようにしていました。

ーそうでした笑。来ていただいて本当にありがとうございました。(藤野さんは昨年我々が実施した、多摩川でラーメンを製麺して食べる会にも来てくれたのです)

しかし、コロナの影響で実際に人と会えない状況は大変ですね。

そうですね、こうしたリモート会議も様々な制限があるので、なかなか今までのようにはみなさんとコミュニケーションできないのが残念です。

ですが、地域や水辺を盛り上げよう!という、これまで以上にみんなで力を合わせようとという機運は高まっているのは最近強く感じます。

ー様々な自粛を経て、今改めて自分の暮らす地域へとフォーカスされている、というのは明るくて良い話題ですね。コロナの影響で社会に大きな変化をもたらしていますが、決して悪い影響だけではないんだと、前向きに考えていきたいです。

・・・さて、今回のインタビューも次で最後の質問になります。

例えば、市民団体が企画するイベントなどだと、初めの一回のときのエネルギーやモチベーションはすごく大きいんですが、それをその後も維持・継続させていくのって実は結構難しいことなんじゃないかと思うのです。資金面や人の関係性、体力面など、様々な理由で。

藤野さんはこれまでにたくさんのイベントに触れてこられたかと思いますが、そうしたハードルを越えることができているようなイベントはありますでしょうか。

また、パブリックな視点から、団体に「こういうふうにしてもらいたい」ということがあればお聞かせください。

継続して開催できている、そうしたイベントはもちろんあります。そうですね、そういうイベントに共通して言えるのは、「いつも中心メンバーが高いモチベーションを持っていて、同時にメンバーを増やす努力をしている」ということです。

例えば、ボランティアを募集して、その中から中心メンバーになれそうな、熱量がある人や能力がある人を運営側に加えるような仕組みづくりをしている団体では、企画や運営方法に新たなアイデアが生まれ、回を追うごとに継続性が高まっているように感じます。

なので、毎回イベントを楽しみにするファンも増え、毎回楽しみにお手伝いをする方もいる、という相乗効果が生まれているのではないでしょうか。

あるイベントの主催者は、コロナによる外出自粛のときにも、仲間を集めてリモートでコミュニケーションをしていました。

それは、単なる打ち合わせだけでなく、イベントでやっているような、簡易ワークショップなどを取り入れていました。こういう非常時でも、中心メンバーの熱意や思いは周囲に共有できていて、一致団結できている感じがしましたね。

ーなるほど、とても良いお話が聞けました。これは企業の組織づくりにも通じるところもありますね。

そうですね。その通りだと思います。あとは、開催する都度、コンセプトや視点を変えて毎回新しいチャレンジをしている、というのもポイントかもしれません。例えば開催場所が変わるごとに、別のテーマにしたり。

ただ、こうした仕組みができている団体がある一方で多くはなかなか次世代へのバトンを渡す準備というか、後継者の育成が進んでいなかったりします。これはどの自治体でも抱えている問題かもしれません。

でも、皆さんお元気な方々ばかりなんですよ笑

ー笑。素敵なことですが、もしかしたら若い人たちからすると少し入りにくさを感じるかもしれませんね。

そうですね。なので、新しい活動としてスタートすることもあります。

そういう新しい団体と、既存の団体の活動の接点を見出して、一緒にイベントをやることもありました。そうすると、そこで初めて団体同士の交流が生まれますからね。

また、異なるコンセプトを持つ団体や、他のエリアにいる団体同士を「水辺で乾杯」といった同じコンセプトで協働することもあります。そうするとメンバーの意識が変わったり、異なる団体同士のコラボレーションが生まれることもあったり、活動の幅も広がると思うんです。

あるいは、発想の転換を生んだり、他の団体を参考にして、自分たちを見つめ直すきっかけにもなったり。

なので、「人と出逢う」というのが、新しい発見づくりだと思っていて、私自身も職場を出て外に出てなるべく直接お会いするようにしてきました。

実際に、みなさんの活動を見たり、お話を聞いていると新しい発見にたくさん出会えましたので。

今、私は「まちづくり局交通政策室」というところに移り、コミュニティー交通という、地域の足を支える仕事に携わっているのですが、「地域の人たちと作る」ということは変わらないので、これからも水辺での経験を生かして取り組んでいきたいと思っています。

ー「人と出逢う」というのが、新しい発見づくりである。という言葉、コロナの影響でリモート化が進む現在においてなんだか心に響きました。また、部署が変わってしまったのに快くお話お聞かせいただいて感謝しています。

ところで、やはり多摩川を愛でる会としては多摩川の「渡し」的な、水上交通を復活してもらいたいんですが、いかがでしょうか。

それは、なかなか難しい・・・ですね笑

ー・・・そうですよね笑。ありがとうございました!